富雄・学園前にあるイタリアンの有名店ラ・クロチェッタが石窯を店内に据え付け、石窯焼きピザも食べられるお店としてリニューアルオープンした。
西岡正人シェフがジビエ料理で有名なならまちの「リストランテ リンコントロ」を立ち上げ、こちらの店舗の運営をお弟子さんに譲ってからは訪問したことがなく、ずいぶん久しぶりの訪問だ。
おそらく5年は来ていなかったのではないだろうか。
西岡シェフの料理を頂けないとなると訪問意欲がどうしても湧いてこなかったのだが、石窯ピザの新店舗と考えればやはり無視はできない。
そもそも、西岡シェフは今も変わらずオーナーなので、いったいどのように店舗をプロデュースし、石窯焼きピザを食べさせてくれるのか。
リニューアルに合わせて、楽しみにしながら久しぶりに訪問してみた。
なお、店舗の場所は富雄川沿いで、富雄駅から大和郡山方面に向かう幹線道路沿いにある。
近くには、無鉄砲グループのつけ麺無心があるなど、一本道のわかりやすい立地で、駐車場も十分な台数と広さが在り、余裕を持って駐車できるのも魅力だ。
車の出し入れは極めて容易なので、初訪でも迷わず、かつスムーズに車の出し入れができるだろう。
正面玄関横には、石窯用の薪が所狭しと並んでいる。
もしかして、店舗の裏手や駐車場で西岡シェフが斧で割り出しているのだろうか。
そういう作業を楽しんでされるお人柄が、いろいろなメディアから伝わってくる方なので、きっとお弟子さんと一緒に薪割りも楽しんでいるのだろう。
クロチェッタもオープンから9年になるとの立て看板。
クロチェッタになる前、ここにイタリアンのようなカフェのようなお店があったことを、かなりおぼろげな記憶で覚えている。
しばらく改装作業のようなことをしていたと思うが、その後クロチェッタになってからいつも駐車場は満車で、ようやく予約が取れて初めて西岡シェフの独創的なイタリアンを頂いてからはすっかりファンになった。
久しぶりの訪問で、お弟子さんの味を頂くのが楽しみだ。
リニューアル後のメニューは、構成は大きく変わらないものの、選択肢に窯焼きピザと窯焼きのメインディッシュが加わっている。
パスタもおそらく、以前はこれほどに形状ごとの料理の選択肢はなかったのではないだろうか。
初訪の場合、必ずオーソドックスにマルゲリータを頂くことにしているので外せない。
パスタもなるべくオーソドックスな形状で頂くことにした。
なお、リニューアル後も部屋の構成は変わっていない。
石窯は厨房の中に設置されたので、客室フロアは全く以前のままだ。
6人掛けと4人掛けのテーブルがある個室もそのままに、リニューアルオープンとなっている。
前菜盛り合わせと自家製パン。写真は2人前だ。
以前と変わらず前菜から多くの種類の味を楽しめる構成になっているが、2人分が一緒盛りで、かつ自家製パンも一緒盛りで出てきたのは今のシェフのやり方ということなのだろう。
玉ねぎは窯焼きでじっくり火を通したものを一度冷やしてあるようだ。
完全には火を通さない状態で上手に熱が入れられており、甘味だけが感じられ、素材の持ち味の引き出し方と併せ前菜としてこれ以上はないワクワク感を持たせてくれる。
玉ねぎの辛味は一切なく、それでいて瑞々しく調理しており、料理に対する期待値が上がる。
しかし自家製パンは、やはり水分が移るものと一緒盛りは避けた方がいいかもしれない。
香ばしく焼き上げられた自家製パンを最上のオリーブオイルだけで頂いていた西岡シェフのスタイルに比べ、パンの旨味と香り、インパクトがかなり弱い。
焼き立てパンの香りと味、割いた時にふわっと立ち上る蒸気は、この頂き方では感じられないのが残念だ。
また、コースからはスープも無くなっているようだ。
その分全体に値段が安くなっている気がするが、こちらもやはり残念だ。
マルゲリータと、カジキマグロとフルーツトマトのトマトソーススパゲティだ。
ピザは薄手のもちもちタイプ。
トマトソースは甘味すら感じられる優しい味で、酸味が弱く子供でも喜んで食べられるとてもマイルドな味に仕上がっている。
モッツァレラチーズの味もとても濃い。
また、耳の部分を特徴的に分厚くしており、この部分は生地の旨みをたっぷりと味わうことができるようになっている。
石窯で焼かれた生地の香ばしさはやはりたまらない。
この旨さと香ばしさをダイレクトに感じるには、マルゲリータでも飾り過ぎだというほどに、石窯焼きで頂くピザはやはり別格の旨さだ。
マルゲリータはシンプルでごまかしの効かない味だけに、丁寧に美味しく作るお店のそれはむしろ食後の印象が薄くなりがちになる。
そういった意味において、このマルゲリータも、旨さを堪能した食後には、すっとその存在感を消していくようであった。
カジキマグロとフルーツトマトのトマトソーススパゲティを頂く。
フルーツトマトとパスタを一緒に頂くと、まずフルーツトマトの甘味がふわっと口の中に広がり、デザートパスタを頂いたような錯覚を感じるが、すぐに酸味が優しく追いかけてきて、これはメインディッシュであることをそっと告げてくれる。
カジキマグロも優しい味わいで、人間関係に例えるとこのパスタは、面倒見がいい優しいいとこのお姉さんと言ったところだろうか。
シェフの人柄と思想がこの味の組立てに滲み出ているようで、かつ、独創性も感じられるソースと味付けに西岡シェフの影も透けて見え、美味い味付けに仕上げている。
一方で、誰にとってもわかりやすい、好みの問題ではない残念な点があるパスタでもあった。
頂いてすぐわかるのは、麺が自家製の生麺であるということ。残念ながら良い意味ではなく、だ。
聞けばお店の地下にある工房で毎日、パスタの形状に合わせ粉のブレンドを変え、季節ごとに加水率などを調整し手打ちをしているとのことだったが、デュラル小麦のセモリナ粉を使った生パスタのモチモチ感がほとんど感じられず、かと思えば部分的にモチモチであったり、食感のバラツキが一口ごとに大きい。
致命的に感じられたのが、パスタが切れておらず団子になっている部分が多く含まれ、また均一に水分が行き渡っておらず縮れ麺のようになっている部分が含まれていたことだろうか。
切れていないのはおそらく打ち粉不足で、作り置いている時に麺を重ね置きして重みでくっついてしまったか、茹でる時に結合してしまったのだろう。
このような麺が含まれていれば、手に持った時、茹でている時、最悪でもソースと絡める時に必ずわかったはずだ。
料理に真摯であれば、この麺は絶対に出せない。
味の好みは千差万別であり、ソースがマズイ、味付けが濃いなどとお店を叩く食べログなどのレビュアーにはいい加減にうんざりするが、おそらく気がついていたであろう中で、オペレーションに妥協したのだろうか。
一期一会の世界に生きるシェフの覚悟はお持ちだと思うが、とても残念であった。
世の中にはそういった画像を嬉しそうにアップすることに生きがいを感じている、おかしな人が少なからずいるので、十分に注意をするべきであろう。
以前は確か、パスタにはイタリアの乾麺を使っていたように記憶している。
素材に真摯であり、かつ独創的な味の組み立てでお客さんを楽しませる西岡シェフの世界観を考えれば、お弟子さんも、必ずしも無理して生パスタを使う必要はないのではないだろうか。
オーソドックスな乾麺を使い、驚くようなパスタを作り上げるのも、素晴らしいシェフの職人芸のはずだ。
ドルチェと、学園前にある紅茶工房「レッジーナ」の紅茶だ。
パンナコッタとストロベリーアイス。
パンナコッタもレッジーナの紅茶で仕立てているそうで、さりげないのにふわっと香る、シェフのセンスが感じられる一皿になっていて美味い。
紅茶用のミルクも、かなり味が濃いのでこれは一体なんだろうと直接ミルクを飲んでみたが、明らかに牛乳ではない。
もちろん、あの植物性油脂の固まりなどでもない。
生クリームと言うには薄く感じられ、牛乳というには濃く感じられる不思議な味がしたが、丁寧に淹れられた紅茶に合わせると、ロイヤルミルクティのようにとても上品で、かつ濃厚なミルクティになり、食後の締めとしてはこれ以上無い一杯だった。
食材に対し真摯であり、ごまかしを用いない西岡シェフの料理思想はまちがいなくこのお店の底流に流れている。
あとはどれだけ、それを徹底できるかではないだろうか。
【店舗データ】
店名:ラ・クロチェッタ
所在地:奈良市中町313-3
定休日:月曜日
TEL:0742-51-5660
営業時間 :11:30~14:30 18:00~22:00
駐車場:十分有り
子供連れ:OK
Webサイト:http://crocetta.nara.jp/