1000年忌特別展「源信」 ~地獄・極楽への扉~|奈良国立博物館

日本人の極楽浄土・死生観に極めて大きな影響を残し、現在も影響を与え続けている平安時代の僧侶・源信。

人が死ねば阿弥陀如来の来迎を受け、極楽浄土に生まれ変わるとする浄土信仰の精神的支柱を確立し、「往生要集」(おうじょうようしゅう)を著したことで知られる。

死後の世界や地獄の裁き、「地獄・餓鬼・畜生・阿修羅・人間・天人」とされる人間の輪廻転生六道を説くなど、源信の到達した仏教の境地は現在も宗派に関わらず日本仏教の礎となる考え方だ。

そんな平安時代の高層・源信は2016年が没後1000年の1000年忌であったが、彼の偉業を改めて称え、彼の影響で生まれた多くの仏教美術を一堂に会する特別展が、奈良国立博物館で開催されることになった。

「源信 ~地獄・極楽への扉~」と題して開かれる今回の展示は2017年7月15日(土)~9月3日(日)まで。

足を運べば、中世以降に描かれ、あるいは創作された多くの仏教美術が、実は源信が確立した浄土教の教えを基礎としていることに、きっと驚くことだろう。

なおこのイベントは人気の展示会なので、混雑することが予想されている。

浄土信仰と言えば、日本では教科書で習う鎌倉仏教の影響のせいか、浄土宗の法然、浄土真宗の親鸞の高僧がまず想起され、源信の功績を称える声は余り聞こえてこない。

しかしながら法然は最初、源信が確立した浄土信仰を学ぶため同じ比叡山で天台宗の修行に身を投じ、諱を源空と称した。

そして厳しい修行の中から、人は阿弥陀佛を信仰し一心に念仏を唱えれば極楽浄土に行けるという浄土宗の教えに到達するが、その信仰と思想は源信のそれを母体としている。

親鸞は法然の弟子で、終生法然の教えを守りさらに高みを目指して浄土真宗の開祖となるが、親鸞が選んだ「七高僧」の第6祖には源信が選ばれ、その次の第7祖に源空(=法然)が選ばれている。

浄土真宗の多くの寺院では今も、この親鸞が選んだ7高僧を思想の中軸とし、宗派の開祖としてお祀りしていることが多い。

なお、源信と法然以外の5高僧は天竺(インド)と中国の高僧が選定されている。

浄土宗や浄土真宗は、現在のところ日本ではもっとも信者の多い仏教の寺院だ。

そのお寺で目にする仏教美術や思想・信仰の源流をたどると、多くの場合、源信に行き当たることを考えると、私達がお寺の説法で耳にする言葉、法事や仏事で触れる仏教思想には、今も色濃く源信の思想が生きていると考えて良い。

それほどまでに、1000年以上に渡り私たち日本人の心と思想に影響を与え続けている源信のことを、日本人は知らなさ過ぎると言っても過言ではないだろう。

その源信だが、生まれは942年で入滅は76歳の年である1017年7月6日。

奈良県葛城郡当麻に生を受け、9歳で比叡山に入るとすぐに頭角を現し、15歳の時には朝廷に参内し村上天皇に仏教の教えを授ける側近の講師に選ばれる。

この際、源信の教えに感銘を受けた天皇は彼を重用し、多くの褒美を授け、以降朝廷内での源信の存在感は高まっていくことになるのだが、そんなある日、源信は故郷に残してきた母に天皇から授かった褒美を全て送り、自分の出世を喜んでもらおうと近況を報告する。

それに対する母からの返事は、以下のような和歌に託した想いであった。

『後の世を渡す橋とぞ思ひしに 世渡る僧となるぞ悲しき まことの求道者となり給へ』

口語に訳すと、

後の世にも橋渡しとなるような、広く世の役に立つ立派な僧になって欲しいとあなたを送り出したのに、あなたは世渡り上手な僧になってしまったのですか。仏教の教えに専心しなさい。

というところだろう。

天皇からの下賜の品々も全て送り返し、息子を思う心と涙を堪え、原点への回帰と更に厳しい修行に身を投じる事を愛する息子に求めた母。

その母の思いを深く心に刻んだ源信は我に返り、地位と名声を捨て比叡山・横川に小さな院を結びさらに厳しい修行に励み、浄土の教えに至り往生要集を著して今に至る日本仏教の礎を築いた。

その教えは、後の世への橋渡しどころか、1000年の時を越えて私達日本人の心に深く刻み込まれた倫理規範となり、多くの国宝美術を生み、法然や親鸞という偉大な仏教者の手によってさらに多くの人々に広められることになった。

日本人が知らない、日本人の心に生きる源信という存在。

時間が許せば、ぜひ足を運んで欲しい奈良国立美術館の特別展である。

なお余談だが、厳しい修行の果てに悟りの境地に至った源信の元に後年、年老いた母を世話する姉から危篤を知らせる知らせが届き、源信は母のもとに急行することになる。

出家してから初めて源信と再会した母親は、真の仏教者になろうとしている息子の姿に大いに喜び、源信はその想いに応えるように枕元で一心に念仏し、阿弥陀佛の来迎と極楽浄土への生まれ変わりを、間もなく息を引き取ろうとしている母親に説いた。

そして臨終の時を迎えることになるのだが、源信の教えを聞き、静かに目を閉じた母親の安らかな往生が目に浮かぶようだ。

そんな人間模様も思い浮かべながら特別展に足を運ぶと、なお一層楽しめるかもしれない。

【イベントデータ】

名称:特別展「源信」         

開催場所:奈良国立博物館       

所在地:奈良市登大路町        

年月日:2017年7月15日(土)~9月3日(日)

開催時間:9:30~18:00        

問合せ先:050-5542-8600(奈良国立博物館)

料金:大人1500円、高校・大学生900円、小中学生500円 

駐車場:無し(周辺駐車場を利用)   

目安所要時間:30分          

Web:特別展源信 公式サイト     

※所要時間の目安は生駒駅から普通乗用車を使った際の最短時間

※写真は全てイメージ

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